特集パートナーズ・インタビュー
2025.05.03 
「自分が幸せに」からはじまるまちづくり トダくらし不動産お披露目イベントから

2月の夜、埼玉県戸田市、戸田公園駅すぐにある小さな居酒屋の跡地「ippuku」には、人があふれていました。かつては常連たちが夜な夜な集っていたその空間が、戸田で40年以上不動産業を営む会社のイベント会場になりました。主催は「トダくらし不動産」で、「平和建設株式会社」の社名はそのままに、屋号を変更してのお披露目イベントを行いました。


トダくらし不動産は「まちなかデベロッパー」として多様な事業を行っている不動産会社で、CHArのパートナーズ会員でもあります。以前にこちらの記事でご紹介したように、平和建設の「これまでやってきたこと、これからやりたいことがもっと伝わるようにしよう」ということで、リブランディングプロジェクトを始めました。CHArとしては企画の立ち上げからMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)策定、クリエイティブディレクションといった、構想から実際に形にするまでの一連を伴走サポートさせていただき、今回のイベントも一緒に企画運営を行いました。


今日は、イベントの様子、特にゲストや参加者の発言を通じて、トダくらし不動産の特徴、まちなかデベロッパーのひとつのありかたをご紹介します。


トダくらしの事業は、「ハコ」を使って人と人とをつなげること


コンパクトな会場にはレンタルしてきた椅子がぎっしりと並べられ、満席状態となりました。まだ空調もあまり整っていない会場でしたが、集まってきた人々の熱で少しずつ温かくなってきます。会場には、戸田で活動するクリエイターやアーティスト、行政関係者、オーナー達が集っています。


「創業から40年以上、“平和建設”という名前でしたが、誰も家を建てたことがなくて。いわゆる建設会社じゃないんです。」

トダくらし不動産代表河邉さんの、これまでの事業紹介プレゼンテーションがはじまりました。

トダくらし不動産では、物件だけでなく、まちに住まう人とくらしに焦点をあてた事業を行ってきました。河邉さんは、今の事業を空き家や空き部屋という「ハコ」を使って、人と人とをつなげることだと表現します。

大勢の人が集った会場で、緊張してプレゼン原稿を読む河邉さん(写真左)



戸田の人達と一緒に考え運営していく、スナックippuku

本記事ではその中でも、イベント会場となった「ippuku」の場所プロジェクトについてご紹介します。


ippukuはもともと一福という名前の、戸田公園駅前最古とも言われていた居酒屋でしたが、コロナの影響でクローズしてしまいました。不動産屋の従来の流れだと、空き店舗が出たら募集をかけて申し込みがあれば用途が決まっていく順番となりますが、歴史があり駅からも近いこの場所の新しい活用方法について、戸田に住む方の意見を募ってみたら面白いのではと考え「勝手にTODAサミット」と名づけた集まりを開催しました。

戸田で活動している方々を集め、物件の活用を考えるワークショップ。さまざまなアイデアが出る中で、スナックをやろうという方向にまとまりました。


集った人からたくさんの「あったらいいな」案が出て、ippukuに繋がった(河邉さんの資料より)


その後河邉さんは、ファンである飲食店を誘致したり、印象的だった高崎のシェアリビングを参考に会員制サロンを検討したり、池袋の路上で開催されているスナックイベントに衝撃を受けたりしながら、それらのコンセプトを掛け合わせて、会員制スナックとして運営することを決めます。

地域にくらすクリエイターや、まちづくりの実践者たちを巻き込み、当番制で店長(チーママ)を担当してもらい、さまざまな交流の場を生み出していく場にしたいとのこと。イベントの中で、「チーママとしてカウンターに立って頂きたい方を、勝手に指名します!」とチーママ発表コーナーも。

今後は関わる方々でDIYをしながら会員制スナックのオープン準備に向けて動いていくそうです。河邉さんらしさ、トダくらし不動産らしさを感じるプロジェクトで、その場所で本イベントが開催できたことで、参加者の戸田への期待と愛着がまた高まったようでした。


スナックであり、会員制コミュニティサロンとして動き始める予定のippuku(河邉さんの資料より)


トダくらし不動産がこれまで手がけてきたプロジェクトや屋号変更の背景については、以下の記事でも紹介しています。ぜひご覧ください。



プレゼンの最後には、屋号変更の趣旨説明と、今後の事業についても説明がありました。「トダくらし不動産」の屋号には、人とくらしに焦点を当てる取り組みにこれまで以上に注力する決意を込めたそうです。途中、地主さんの言葉も、背中を押してくれたと話します。

河邉さん:
地主さんから「土地が喜ぶ使い方をしてくださいね」と声掛けをいただいたことがありました。その言葉はとても沁みました。土地の売却というシーンでも、資産価値だけが指標ではないと痛感しました。売主様、買主様、そしてまちが、全部喜ぶようなご提案をできるように、知見をつけていきたいと思っています。



「このまちでよかった」と実感を持ってもらえるようにしたい 市長からのメッセージ

プレゼンの後には、戸田市の菅原市長からのメッセージも。

戸田市には今若い人口が増えています。喜ばしいことですが、戸田での不動産価格も高騰しているため、子どもの年齢が一定になると市外に転居してしまう家族も多いことは課題で、
モクチンレシピなど使って、ファミリー世帯がこのまちで暮らせる場所を増やしていきたいとのこと。

トダくらし不動産のプロジェクトには市長も何度か参加していて、とがっている取り組みが多いこと、周りに若い層も集っていることは、市長も心強く感じているそうです。
「思い切りやっていただきたいし、やれることは一緒にやりましょう。
このまちを面白くして、住んでいる方が『このまちでよかった』と実感を持ってもらえるようにしたい。」と激励をいただいていました。


菅原市長(写真中央)の激励を受ける河邉さん(写真左)


不動産会社がまちを考えていく上で行政は重要な関係者ですが、日々意識している視点は異なることもあり、良い関係を作っていくのは簡単ではありません。河邉さんが関係を築いてきた人の幅広さ・深さを象徴しているようでした。


巻き込まれているようで、人を巻き込んでいる河邉さん

イベント後半では、河邉さんと縁の深い3人——青木純さん、草場智湖(通称ばちこ)さん、連(CHAr代表)、とのトークセッションが行われました。

青木さんは、大家を中心に暮らしの場に関わる人を対象とした学び舎「大家の学校」の主催者であり、自らも大家として職能の認識を変革してきた方。河邉さんは2018年を最初に大家の学校に何度も参加し、青木さんはもちろん、その場に集う不動産関係者から刺激を受けてきました。

ばちこさんは戸田で活躍されるデザイナーで、トダくらし不動産が発行するフリーペーパ―「TODA ippuku MAP」などのデザインで協力してきたご縁から、今回のリブランディングも担当されました。

CHArと河邉さんのご縁は2015年から。モクチンレシピで河邉さんの物件を多数改修いただいた他、新築「はねとくも」の設計でもご一緒しています。


右から順に、青木さん、ばちこさん、河邉さん、連

まず語られたのは、河邉さんの“人の巻き込み方”についてでした。3人がそれぞれ語った河邉さんの人物像は、次のようなものでした。

連:
今日の場が象徴していると思うのですが、こういったイベントにこれだけ大勢の方が集うって、簡単なことではないと思うんです。河邉さんの周りには常によい仲間や協力してくれる人がいるんですが、それはたまたまではないんですよね。たくさんの人に声をかけたり、自分でネットワークを作っていたり、意志を持って動かれているから実現できていることだと感じています。

青木:
さっきのプレゼンテーションで、「今後ippukuのマスターになってほしい人」としてたくさんの人をスライドに勝手に登場させていて。あのやり方はすごいと思って見ていました。「すみません」と言いながらやっている巻き込み方を見てると全然すみませんって思ってないでしょって思うんですよ。(笑)いい感じの圧力をかけてくる。

ばちこ:
今回のリブランディングでも、そんな河邉さんの性質をどう表現するかが悩んだ点でした。河邉さんは根本には芯がある。でも周りの影響も受ける柔軟な方でもあるんです。柔軟と芯とで戦っているものを、どうにか言語化したい、形にしたいというのが、今回のテーマでもあったんです。

河邉さんは「すみません」が口癖の、腰が低く真面目な方。他の人に巻き込まれて始めたんです・・・というような言い方でプロジェクトを説明されることも多いのですが、実際にはその柔軟性も強みにしながら、自分の意志を軸にプロジェクトを仕掛けている様子が、周りの関係者から明らかにされました。

まちなかデベロッパーのような事業は、まちで多くの人と関わりながら進めていく事になりますが、大きな声でわかりやすく人を引っ張っていくような方法だけでなく、柔らかでたくさんの人の意志を受け止めるからこそ動かせることもあります。リーダーシップのあり方は多様でありえるのだと感じたシーンでした。



まちの人が幸せになることをするのが不動産会社


最後に出たテーマは「何を大事にしてまちづくりや事業を行うか」でした。

連の「屋号変更を経てやっていきたいことを、改めて自然体の言葉で教えてほしい」というリクエストに対し、河邉さんはこう答えました。

河邉:
正直、まちを主語にして考えているわけではないんです。自分、自分の家族、そこに関わる人が幸せになればいい、という考えから広がっている感じですね。今日この場に来てくれている方たちは大好きな人たちで、そういった人達が幸せなら私が幸せなので、協力して幸せになっていきましょう、と思っています。

その素直な回答に、青木さんはそれこそ不動産屋ではないか、と話します。

青木:
まちって個の集合だから、自分の幸せから始まって、個人の幸せを繋いでいくというのは、率直で原点という感じがしました。
河邉さんは自分のことを不動産会社らしくないって言うけれど、本来不動産会社の仕事ってそういうものだったと思うんですよね。まちにいる人が幸せになるためのことをするのが不動産会社。

よく聞く「まちがよくなる」という言葉、それは「住んでいる人にとってまちの暮らしが楽しくなる」っていうことだと思うんです。楽しくなるからどんどん人が集まってきて、つながりが生まれる。
今日の場だって、楽しそうだからippukuに来ただけだったところから、イベントの様子を見て戸田の暮らしは楽しそうだって思う人が出てきて、通ったり住んだりし始める人が出てくるんですよね。
河邉さんのプレゼンで、事業としての注力点の話もありましたが、不動産会社はまちが良くなれば自ずと儲かるし、まちが良くならなかったら儲からない。シンプルなことだと思ってます。


参加者からの質問や意見も交えながら温かな雰囲気でイベントは終了となり、続けての懇親会も大いに盛り上がりました。

懇親会も終えての最後、河邉さんと共に事業を支えている奥様の典子さんが「色々なことを仕掛けていきたいと思いますので、皆さん集まってください。」とご挨拶、河邉さんは「本当に皆さん大好きです。」という一言で締めていました。

トダくらし不動産が、戸田のどんな人々と普段活動しているのかがよくわかる場でもあり、河邉さんが皆さんに、愛され頼られ巻き込まれている様子が伝わる場でもありました。
まちなかデベロッパーとして最も大切なのは、動いていく本人が、そのまちを好きで楽しんでいることなのではないか、と思った夜でした。

戸田で活動する人、河邉さんを慕う人が集まった。室内はこの後DIYで仕上げていく予定。



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