築44年の木賃アパートの改修である。既存は1階に店舗が4戸、2階に賃貸住居が4戸あり、1階の既存テナントであった電気屋と美容院を残し、全体を改修することが求められモクチンレシピを組み合わせて改修が実施された。改修前の廊下には、洗濯機、傘、仕事道具などの私物が溢れており、そうした居心地がよいとは言えない設えが地域とアパートの関係を切っている要因にもなっている。「くりぬき土間」によって、各住戸の玄関を廊下から1.8mほどセットバックさせ、土間スペースを作った。このスペースは専有部なので、各住人が私物を置くことができ、もともと廊下の壁に適当に配置されていたメーターや給湯器などの機器類を整理して設置する場としても機能している。また、廊下と玄関の間に土間があることで、硬く閉ざされていた玄関扉をガラス戸にすることができ、一般的には暗くなりがちな玄関やキッチンを明るくすることができた。また、耐震壁を配置すると窓や開口が少なくなってしまう場合が多いが、玄関が開放的になることで、採光が確保され、部屋が暗くなることを心配せず耐震壁を効率よく配置できた。室内は各部屋の状況に合わせて、最大限既存部を残しながらお馴染みの「のっぺりフロア」「チーム銀色」「押入れ居室仕上げ」といったレシピによって改修されている。外壁を「さわやか銀塗装」にすると、隣家の植栽や視線の抜けといった、今まで気が付けなかった魅力が顕在化してくる。どれも改修操作は部分的で些細なものであるが、各スペースが少しずつ周辺環境との関係を取り戻すことで、閉じた箱になっていた木賃アパートが、地域と馴染んだ社会資源として生まれ変わる。(新建築2017年8月号掲載の文章を加筆修正)