特集イベントレポート
2021.01.08 
モクチンパートナーズ 実務セミナー(第三回)レポート「築古物件の修繕計画・メンテの秘訣(基本となる知識、保険活用)」


12月17日(木) 18:00〜19:00に“不動産管理の実務”に焦点を当てた「モクチンパートナーズ 実務セミナー」の第三回を開催しました。この記事では、その内容についてのレポートをお届けします。



「モクチンパートナーズ 実務セミナー」は、「モクチンレシピ」に限らず、専門知識への理解をモクチンパートナーズ全体で深めていくことを目的のひとつとしたセミナーです。10月から12月まで計3回、ゲストをお招きし、専門的なレクチャーと質疑応答をセットとして行いました。


第一回「これからの管理会社の在り方」、第二回「住宅診断のポイント 」に続き、第三回は「築古物件の修繕計画・メンテの秘訣」ということで、ゲストにモクチンパートナーズ会員で、株式会社マチモリ不動産代表の三好 明さんをお招きしました。


大手不動産管理会社に勤めながら副業として熱海に関わり始め、まちづくり会社((株)machimori)取締役を経て、2019年3月に(株)マチモリ不動産を開業された三好さん。


課題先進都市といわれる熱海での不動産管理の現状とともに、課題を解決していくための方法、主に火災保険の活用ポイントを伝授していただきました。

熱海のような状況下で、不動産仲介・管理・リフォーム会社を信頼できなくなっている大家に対して、管理会社として、課題認識の共有を図ったり、入居者の声を届けたりしていくことが大切であることがよくわかった1時間でした。

 

 

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1. 熱海から見えてくる不動産業界の未来


三好さんが縁もゆかりもなかった熱海に移住し起業しようと思った理由は、熱海には「30年後の不動産業界の未来」があるから。実際に熱海で不動産のお仕事を始めてからは、まちの面白い場所や人を案内することで、観光では見られない熱海に触れ、生活のイメージを膨らませてもらう、ということをされているそうです。


熱海の不動産課題は大きく分けると以下の3点。もはや、1部屋単位ではなく、エリア全体で考えていかないとこれらは解決していかないと言います。

①空き家が多いのに住める住宅がない。

②多様なライフスタイルに応じた「選択肢」がない

③「不動産管理の新しい可能性」への挑戦


そして、高額物件は大手仲介会社が扱い、地元管理会社は自らが大家業に転身していく、さらに、リフォーム会社は大家にいかにお金を多く使ってもらうかを考えるようになる。このような現象は熱海に限らず起こっていて、そういった場所では大家が誰も信用できなくなってきてしまうとのことでした。


三好さんは、このようなタコ壷化からの脱却をはかるため、それらの業務を一貫して行うこと、客付けを先に行うことで投資回収の見込みを立ててからリノベーションを行うこと、そして、マーケットの状況を大家と共有することを大切にされているそうです。


「多様さが織りなす住まうビル」というコンセプトを設定し、用途の自由度を高めた築66年のビル


もちろん、共用部分のバリューアップで家賃を上げていくことも解決のための一つの策となります。

そこで、上手く活用したいのが本日のテーマでもある「火災保険」です。



2. 課題解決のための「火災保険」活用法

火災保険は、経年劣化については対象外となるなど、なかなか活用できる幅が狭いと思われがちですが、諦めていたものにも実は可能性があるそう。

実際にマチモリ不動産では月に1-2件保険を使った改修があるそうで、屋上からの水漏れを物がぶつかってきた形跡を見つけ申請した事例や、グレーチングを誰かに壊された跡を見つけ申請した事例などがあるそうで、計10通りをお見せいただきました。

どんな基準なら適用となるのか見極めるためには、保険がおりたら明細をもらい、そこから基準を見つけていくことのが良いということでした。さらに、鑑定人が現地調査して作る書類をこちらで事前に提出すれば鑑定人の現地調査なしで、そのまま保険がおりることもあるそうで、そのためには、申請書・見積書・写真に加え、「被害を示した図面(平面・立体)」「マッピングした地図」を揃えておくことが大切とのことです。

ただし、保険活用にあたっては、コンプライアンスを守ること、大家さんと「保険を使う意味」「保険金の流れ」を事前に合意しておくことも忘れてはならないポイントです。



給水管の不具合として対処した給水管破裂(被害損額が500万)の事例

保険そのものを、見直すことも考えられます。契約期間、特約の内容に加え、鉄筋コンクリートの場合は火災で全焼することは考えづらいので「付保率」を60%にするなど、個別に見ていくと保険料を安くできる点は見つかりそうです。

管理会社の大事な仕事で見落とされがちなのは「修繕履歴」を取り、不具合やリスクを整理すること。それを年に1度ほど、大家の決算月の2〜3ヶ月前などに共有することで、原状回復でカバーしていた物理的・機能的な劣化に加え、入居者が置かれている環境の変化である「社会的劣化」に対応するための話し合いもスムーズに行えるようになっていくのでしょう。


大家との課題認識の共有のための取り組み例

また、長期的修繕計画を立てる際には、10年スパンほどで劣化項目を洗い出したり、税金対策も兼ねてどの時期にいくら使うかを考えることがポイントだそう。建物は、延命するか建て替えるか売却するしかないので、この時にエリア全体を見て、財産管理をしていくことが重要になってきます。


3.管理会社としての展望 

管理会社として伸びそうな仕事ということで、①ビルのプロデュース、②インスペクション、③断熱化の3つをあげられました。

物件価値は落ちてきているものの実はポテンシャルが高い物件もあり、それらに対しては、リスクを顕在化し、価値付けをきちんと行っていくことで、手数料ビジネスが回るようになることもあるといいます。


マチモリ不動産の管理エリアの将来をマッピングしたものを見せていただきました

最後に、熱海で新しい大家との繋がりをつくっていくきっかけとなったのは、商工会議所の青年部や、直で空き家の大家に手紙を書いたこともありつつ、何より地道な町内会活動だったそうです。

「まちの採用担当」とも表現される大家と、いかに現状を共有し、まちの未来に想いを馳せられるか。そのためには、意識的に、入居者や入居希望者がどんな声を発しているのかを代わって大家に届け続けることが、管理会社のこれからはますます重要な仕事になっていくのでしょう。

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