「モクチンパートナーズ 実務セミナー」は10月から12月まで計3回シリーズで行われる、専門的なレクチャーと質疑応答の時間を設けたセミナーシリーズです。これまで「モクチンレシピ」が中心のイベントが主だったのに対して、今回は初めての不動産管理の「実務」に焦点を当てたセミナーとなります。
初回となる今回のセミナーでは、まずはじめに、お部屋探しや賃貸の入居者の傾向が変化しているという不動産業界の現状を確認しました。最近は、内見の件数、訪問する不動産会社の件数は共に減少しており、入居者を決めるのによりコストがかかるようになっています。そうした状況でやっとのことで決まった入居者も、初期費用が安いために、大切に住まなかったり、短期で退去してしまったり…と、入居後の手間がかかる場合も増えているそうです。
こうした現状から、これからの管理会社には、「いい人に」「長く」「大切に」住んでもらうために住みやすく愛着が持てる住まい作りについて真剣に考え、オーナーに提案する能力が必要と伊部さんは仰います。
そして、この課題に向き合ってきた結果生まれた3つの事例をご紹介いただきました。
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1. 町の望む人を誘致!コミュニティ賃貸住宅
一つ目は、足立区の継ぎ手がいない350坪の元銭湯を賃貸にした事例です。こちらは、「10年後、賃貸経営はどうなるのか?」というオーナーからの長期的な視点での質問がきっかけで、実際に町内会活動にも足を運び、「地域の絆で子供を見守る賃貸住宅」というアイディアが生まれたのだそうです。
現在は、町内会・入居者・管理会社(子どもについてのクレームが来ない)の3者にとって良い住宅として活用され、新聞や区の「住生活マスタープラン」計画書にも掲載されるなど、注目を集めています。
2.築古物件をアイディアで蘇らせる「DIY可能な賃貸住宅」
二つ目は、築39年空室率50%の農協組合員さんの物件を「DIY可能物件」として再生した事例です。
築古物件の空室率が長期化し、家賃の値下げを行なった結果、入居者の質が下がり、リフォーム費用が嵩む、という状況は一般的に起こりえます。一方で、部屋探しにおいて、もっとも決め手となるのは「家賃」、もっとも諦めた人が多いのは、「築年数」というデータもあります。
築年数がたっていても、きれいなら入居したいという結果をみて、「DIY賃貸」の可能性を探るべく、HEAD研究会にて「賃貸DIYガイドライン」を作成したり、デザインと施工のサポートを実施したりされたそうです。
当初は高齢者が50%のみ入居している物件でしたが、全室が20〜30代の入居者に入れ替わり、家賃は1万円アップ。大切に住んでもらえているとのことでした。
3.社会課題を解決する「高齢者を安心して受け入れられる賃貸の仕組み」
最後、三つ目は、高齢入居者の問題を解決すべく行われている事例をご紹介いただきました。
賃貸が終の住処になるケースも増えてくると言います。高齢入居者は、孤独死、意思能力喪失などのおそれからオーナーからの理解がえられにくく、また管理会社の実務面でも、保証人が取れない、家賃滞納など、悩みが少なくありません。さらに、死後の告知にも不安が残ります。
これらに対し、全宅連では「病死・事故死は告知義務無くてもいいのでは?」といった画期的な提言も含まれるガイドブックや報告書を作成していたり、不動産業界内では受講しやすい「認知症サポーター養成講座」が広まったりしているそうです。
また、伊部さんは、地元の自治体・福祉団体と連携して、不動産管理会社ではできない入居者のためのサポートを行なっていくことも挑戦中だということでした。
次回の実務セミナーは、11月26日(木)18:00〜19:00、「住宅診断のポイント(中古物件の評価、災害後の対処) 」ということで、NPO法人日本ホームインスペクターズ協会(JSHI)理事でいらっしゃる、パートナーズ会員 平和建設(株)の河邉 政明さんにお越しいただきます。お楽しみに!